「一人一票裁判」は、古くは57年前に遡ります。昭和37年、当時司法修習生だった故越山康弁護士は、裁判官から1962年3月26日の米国連邦最高裁Baker 判決(Baker v. Carr, 369 U.S. 186 (1962) )を紹介した「Newsweek」誌を手渡されました。 Baker 判決とは、それまで、投票価値の不平等の問題は、「政治的な問題」であるため、司法審査は及ばないとしてきた連邦最高裁が、従来の見解を否定し、投票価値の不平等の問題は司法審査の範囲内であり、裁判所が判断できると判決した有名な裁判です。越山弁護士は、そのBaker判決にヒントを得て、早速、同年7月に施行された参議院選挙につき、日本で初めて議員定数是正裁判を起こされました。その後、選挙の度に同様の裁判が提起され、改善されてきたものの、一人一票にはほど遠い状態が続き、投票価値の不平等は一向に解決されておりません( [これまでの一人一票裁判一覧表] )。 一人一票裁判は、「議員定数是正裁判」、「選挙無効裁判」とも呼ばれています。
【①2009年衆院選】
2009年に入り、越山弁護士のグループとは別に、全国の弁護士有志が、2009年の衆議院選挙に関する一人一票(衆院)裁判を全国7高裁1高裁支部に提起し、6勝2敗(4つの違憲違法判決、2つ違憲状態判決)で勝利しました。
【②2010年参院選】
年が明けて2010年の参議院選挙に関する一人一票(参院)裁判では、同弁護士有志が、全国8高裁6高裁支部で15件の裁判を提起し(東京高裁は2件)、15戦15勝(3つの違憲違法判決と12の違憲状態判決)しました。
2009年一人一票(衆院)裁判では、2011年3月23日に最高裁大法廷判決が言い渡され、投票格差の不平等の主因となっている一人別枠制方式は憲法に違反する状態に至っていると判示し、できるだけ速やかに1人別枠方式を廃止し、憲法の要請にかなう立法をするよう命ずる画期的な内容となりました。
また、2010年一人一票(参院)裁判では、 2012年10月17日に最高裁大法廷判決が言い渡され、
@「投票価値の平等の要請」の点では、『参院選の選挙権は、衆院選の選挙権と同じである」という点と、A「都道府県による選挙区割りは憲法上の要請ではない」という2つを判示した更に画期的な判決となりました。
【③2012年衆院選】
この2012年衆院選は、いわゆる「0増5減」改正法成立後の選挙でした。
国は、「0増5減」改正法の成立で、一票の格差是正は解決していると主張していましたが、最高裁は、「0増5減」では、2011年最高裁判決が要求した『1人別枠方式の廃止』の問題は解決されたとは言えないと判断しました(2013年11月20日大法廷判決)。
この2013年最高裁判決の最も注目すべきところは、鬼丸かおる判事が、個別意見で、憲法の定める国民主権に基づく1人1票の原則を明言したことです。
【④2013年参院選】(全47選挙区)
その後、「4増4減」という、H24年最高裁判決に違反する選挙区割りで行われた2013年7月の参院選挙についての一人一票裁判が提訴されました。
この裁判も、全国8高裁6高裁支部で提起され、高裁では15戦15勝(1つの違憲無効判決、2の違憲違法判決、12つの違憲状態判決)でした(原審結果はこちら)。それらの判決には、7つ目の人口比例選挙判決を含みます。もちろん、合憲はゼロでした。
この2013年参院選に対する最高裁の判断は、「違憲状態」でした(2014年11月26日大法廷判決)。
2014年最高裁大法廷判決(以下、「平成26年大法廷判決」という)も、以下の通り、2012年大法廷判決と同旨を述べています。
【⑤2014年衆院選】(全295小選挙区)
【⑥2016年参院選】(全45選挙区)
【⑦2017年衆院選】(全289小選挙区)
【⑧2019年参院選】(全45選挙区)
そして、2019年7月参院選です。これまでと同様に、全選挙区(45選挙区)で原告が立ちました。2019年9月から各地の高裁・高裁支部で弁論が始まります。
近代における初の民主主義国家であるといわれるアメリカでも、この投票価値の不平等に関する問題は、国会では解決できませんでした。
上記で述べたBaker判決の後、アール・ウォーレン(Earl Warren)米国最高裁長官による、米国連邦最高裁(Raynols)判決(Reynolds v. Sims, 377 U.S. 533)(1964))が「1人1票の原則」を示すことにより、米国は、人口比例選挙(1人1票)が保障される民主主義国家になりました。いまから約50年前です。
日本は、米国に50年遅れてはいるものの、2009年から竹崎コート(竹崎博允最高裁長官)による3つの歴史的な最高裁判決が言渡され、日本も、憲法の定める「人口比例選挙(1人1票)が保障される国」へ向けて大きく前進しました。
このことは、8つの人口比例選挙・高裁判決がでていることからも強力に裏付けられます。
2011年、日本は史上最悪とされる東日本大震災に見舞われました。事故が起こった福島原発は、3年経った現在においても、事故の収束とは程遠い状態にあります。今後数〜数十兆円規模が予想される事故対応策は、国会で審理される最難関の政策判断となります。
2013年には特定秘密保護法が成立し、2014年には集団的自衛権の解釈変更が閣議決定されました。これらは、いずれも、国のかたちを大きく変えるとともに、国論を2分する国民にとって最重要の政策です。
上記に加え、更に、年金、税制、少子高齢化など、日本は様々な難題に直面しています。
国民主権国家において、国のかたちを決めるのは、国会議員ではありません。
国民主権国家において、国のかたちを決めるのは、主権者である国民です(憲法前文第1文、1条)。
国民(主権者)の多数決が国会議員の多数決と一致するための選挙は、人口比例選挙(1人1票)以外にありません。
これからの日本をどのような国にするのかは、どこに住んでいようとも、性別や貧富による差別もされることなく、1人1票の多数決で決めましょう。なぜなら、それが、憲法の定める国の意思決定の仕組みだからです。
1人1票は最高裁の1人1票判決で実現します。
最高裁判決も1人1票の多数決で決まります。15人の判事のうち、過半数(8人)の判事が「1人1票の原則」を明言すれば、1人1票判決になります。
現職の裁判官で、1人1票賛成派裁判官は林景一裁判官、宮崎裕子裁判官のお二人です。
最後に、人口比例選挙の明言はなかったものの、「憲法が、「誰もが過不足なく一票を有する」との理念を目指している」と判示した福岡高裁平成22年3月12日判決(森野俊彦裁判長)の一部を以下引用します。
次の最高裁判決が下るまでのこれからの数か月間は、一人一票判決への重要な運動期間となります。
国民は、憲法どおりの1人1票を要求していると発信し続けましょう!
No. | 判決期日 | 裁判所 | 判 断 | |
【平21衆院選】高裁:違憲・違法(4)違憲状態(2) 合憲(2) | ||||
1 | 平21/12/28 | 大阪高裁 | 違憲・違法 | |
2 | 平22/1/25 | 広島高裁 | 違憲・違法 | |
3 | 3/9 | 福岡高裁那覇支部 | 違憲状態 | |
4 | 3/11 | 東京高裁 | 合憲 | |
5 | 3/12 | 福岡高裁 | 違憲・違法 | |
6 | 3/18 | 名古屋高裁 | 違憲・違法 | |
7 | 4/8 | 高松高裁 | 違憲状態 | |
8 | 4/27 | 札幌高裁 | 合憲 | |
最高裁
1 |
平23/3/23 | 最高裁大法廷 | 違憲状態(一人別枠廃止) | |
【平22参院選】高裁:違憲・違法(3)違憲状態(12) | ||||
9 | 平22/11/17 | 東京高裁 | 違憲・違法 | |
10 | 12/10 | 広島高裁 | 違憲状態 | |
11 | 12/16 | 東京高裁 | 違憲状態 | |
12 | 12/16 | 広島高裁岡山支部 | 違憲状態 | |
13 | 12/24 | 仙台高裁 | 違憲状態 | |
14 | 平23/1/25 | 仙台高裁秋田支部 | 違憲状態 | |
15 | 1/25 | 高松高裁 | 違憲・違法 | |
16 | 1/25 | 福岡高裁那覇支部 | 違憲状態 | |
17 | 1/26 | 広島高裁松江支部 | 違憲状態 | |
18 | 1/28 | 大阪高裁 | 違憲状態 | |
19 |
人口比例
1 |
1/28 | 福岡高裁 |
違憲・違法
(「人口比例選挙」判決) |
20 | 1/28 | 福岡高裁宮崎支部 | 違憲状態 | |
21 | 2/24 | 札幌高裁 | 違憲状態 | |
22 | 2/24 | 名古屋高裁 | 違憲状態 | |
23 | 2/28 | 名古屋高裁金沢支部 | 違憲状態 | |
最高裁
2 |
平24/10/17 | 最高裁大法廷 |
違憲状態
(①参院選の1票の投票価値は、衆院選のそれと同一、②都道府県単位の否定) |
|
【平24衆院選】高裁:違憲・違法(11)違憲状態(2)違憲・無効(2) | ||||
24 |
人口比例
2 |
平25/3/6 | 東京高裁 |
違憲・違法
(「人口比例選挙」判決)(0増5減不十分) |
25 | 3/7 | 札幌高裁 | 違憲・違法(0増5減不十分) | |
26 | 3/14 | 仙台高裁 | 違憲・違法(0増5減不十分) | |
27 | 3/14 | 名古屋高裁 | 違憲状態(0増5減不十分) | |
28 |
人口比例
3 |
3/18 | 福岡高裁 |
違憲状態
(「人口比例選挙」判決) (0増5減不十分) |
29 |
人口比例
4 |
3/18 | 名古屋高裁金沢支部 |
違憲・違法
(「人口比例選挙」判決)(0増5減不十分) |
30 | 3/22 | 高松高裁 |
違憲・違法
(0増5減不十分)(「人口比例選挙(は)・・・一つの理想ないし目標」) |
|
31 |
人口比例
5 |
3/25 |
広島高裁
(山口弁護士グループ) |
違憲・無効
( 実質的な「人口比例選挙」判決: 「国会の広範な裁量権は、・・・民主的政治過程のゆがみを是正するという極めて高度の必要性から、制約を受ける」) |
32 | 3/25 | 広島高裁松江支部 | 違憲・違法 | |
33 |
人口比例
6 |
3/26 | 広島高裁岡山支部 |
違憲・無効
(「人口比例選挙」判決) (0増5減不十分) |
34 | 3/26 | 福岡高裁宮崎支部 | 違憲・違法 | |
35 | 3/26 | 福岡高裁那覇支部 | 違憲・違法 | |
36 | 3/26 | 広島高裁 | 違憲・違法 | |
37 | 3/26 | 大阪高裁 | 違憲・違法 | |
38 | 3/27 | 仙台高裁秋田支部 | 違憲・違法 | |
最高裁
3 |
平25/11/20 | 最高裁大法廷 |
違憲状態
(鬼丸判事:「人口比例選挙」の反対意見) |
|
【平25参院選】高裁:違憲・違法(1)違憲状態(12)違憲・無効(1) | ||||
39 |
人口比例
7 |
平25/11/28 | 広島高裁岡山支部 |
違憲・無効
(「人口比例選挙」判決) |
40 | 12/5 | 広島高裁 | 違憲状態 | |
41 | 12/6 | 札幌高裁 | 違憲状態 | |
42 | 12/16 | 名古屋高裁 金沢支部 | 違憲状態 | |
43 | 12/16 | 高松高裁 | 違憲状態 | |
44 | 12/17 | 福岡高裁那覇支部 | 違憲状態 | |
45 | 12/18 | 大阪高裁 | 違憲・違法 | |
46 | 12/18 | 名古屋高裁 | 違憲状態 | |
47 | 12/19 | 福岡高裁 | 違憲状態 | |
48 | 12/20 | 福岡高裁宮崎支部 | 違憲状態 | |
49 | 12/20 | 東京高裁 | 違憲状態 | |
50 | 12/20 | 仙台高裁 | 違憲状態 | |
51 | 12/25 | 広島高裁松江支部 | 違憲状態 | |
52 | 12/26 | 仙台高裁秋田支部 | 違憲状態 | |
最高裁
4 |
平26/11/26 | 最高裁大法廷 |
違憲状態
(鬼丸判事:「人口比例選挙」の反対意見、 山本判事:「人口比例選挙」の反対意見) |
|
【平26衆院選】高裁:違憲・違法(1)違憲状態(11)合憲(2) | ||||
53 | 平27/3/19 | 東京高裁 | 合憲 | |
54 | 3/20 | 名古屋高裁 | 違憲状態 | |
55 | 3/23 | 大阪高裁 | 違憲状態 | |
56 | 3/24 | 広島高裁 | 違憲状態 | |
57 | 4/24 | 札幌高裁 | 違憲状態 | |
58 | 3/24 | 仙台高裁秋田支部 | 違憲状態 | |
59 | 3/25 | 名古屋高裁 金沢支部 | 違憲状態 | |
60 | 3/25 | 高松高裁 | 合憲 | |
61 |
人口比例
8 |
3/25 | 福岡高裁 |
違憲・違法
(「人口比例選挙」判決) |
62 | 3/25 | 広島高裁松江支部 | 違憲状態 | |
63 | 3/26 | 福岡高裁那覇支部 | 違憲状態 | |
64 | 3/27 | 福岡高裁宮崎支部 | 違憲状態 | |
65 | 4/9 | 仙台高裁 | 違憲状態 | |
66 | 4/28 | 広島高裁岡山支部 | 違憲状態 | |
最高裁
5 |
平27/11/25 | 最高裁大法廷 |
違憲状態
(鬼丸判事:「人口比例選挙」の反対意見) |
|
【平28参院選】高裁: 違憲状態(9)合憲(5) | ||||
67 | 平28/10/14 | 広島高裁岡山支部 | 違憲状態 | |
68 | 10/17 | 名古屋高裁 金沢支部 | 違憲状態 | |
69 | 10/18 | 東京高裁 | 合憲 | |
70 | 10/18 | 高松高裁 | 合憲 | |
71 | 10/19 | 福岡高裁宮崎支部 | 合憲 | |
72 | 10/19 | 仙台高裁秋田支部 | 違憲状態 | |
73 | 10/20 | 福岡高裁那覇支部 | 合憲 | |
74 | 10/20 | 大阪高裁 | 違憲状態 | |
75 | 10/26 | 広島高裁松江支部 | 違憲状態 | |
76 | 10/28 | 広島高裁 | 違憲状態 | |
77 | 10/31 | 福岡高裁 | 違憲状態 | |
78 | 11/2 | 札幌高裁 | 合憲 | |
79 | 11/7 | 仙台高裁 | 違憲状態 | |
80 | 11/8 | 名古屋高裁 | 違憲状態 | |
最高裁
6 |
平29/9/27 | 最高裁大法廷 |
「今後の投票価値の較差の更なる是正に向けての方向性と立法府の決意」を評価して、合憲
(鬼丸判事:「人口比例選挙」の反対意見、 山本判事:「人口比例選挙」の反対意見) |
|
【平29衆院選】高裁: 違憲状態(1)留保付合憲(12)合憲(1) | ||||
81 | 平30/1/19 | 福岡高裁那覇支部 | 留保付合憲 | |
82 | 1/30 | 仙台高裁秋田支部 | 留保付合憲 | |
83 | 1/30 | 東京高裁 | 留保付合憲 | |
84 | 1/31 | 高松高裁 | 留保付合憲 | |
85 | 1/31 | 大阪高裁 | 留保付合憲 | |
86 | 1/31 | 名古屋高裁金沢支部 | 留保付合憲 | |
87 | 2/2 | 仙台高裁 | 留保付合憲 | |
88 | 2/5 | 福岡高裁 | 留保付合憲 | |
89 | 2/6 | 札幌高裁 | 合憲 | |
90 | 2/6 |
東京高裁
(山口弁護士グループ) |
留保付合憲 | |
91 | 2/7 | 名古屋高裁 | 違憲状態 | |
92 | 2/15 | 広島高裁岡山支部 | 留保付合憲 | |
93 | 2/19 | 福岡高裁宮崎支部 | 留保付合憲 | |
94 | 2/21 | 広島高裁松江支部 | 留保付合憲 | |
95 | 3/20 |
広島高裁
(山口弁護士グループ) |
合憲 | |
96 | 3/30 | 広島高裁 | 留保付合憲 | |
最高裁
7 |
平30/12/19 | 最高裁大法廷 |
「平成28年改正法の成立」を評価して、合憲
(人口比例選挙の原則を明言した4名の判事:鬼丸判事(違憲違法)、山本判事(違憲無効)、林判事(違憲状態)、宮崎判事(違憲状態)) |