海外に住む日本人が最高裁判所裁判官の国民審査に投票できないのは憲法違反か否かが争われてきた訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は25日、国民審査法が在外国民に審査権の行使をまったく認めていないのは憲法15条1項(公務員を選定し罷免する国民固有の権利)、同79条2項、3項(最高裁判所の裁判官の任命は総選挙の際に国民の審査に付し、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは罷免される)に違反する」として違憲判断を下した。15人の裁判官全員一致の意見だ。最高裁が法令を違憲と判断したのはこれで戦後11件目。国が審査権の行使を可能にする所要の立法措置を取らないという不作為も認め、原告一人当たり五千円の賠償を国に命じた。
この裁判は、一人一票訴訟を率いる升永英俊、久保利英明、伊藤真の3名の弁護士が訴訟代理人となり2010年、東京地裁に提訴した裁判で翌11年、「憲法適合性については重大な疑義がある」との判決を引き出したことが突破口だった。それが最高裁大法廷の違憲判断として実を結んだことは喜ばしい限りだ。同時に、升永弁護士らが国民審査権は選挙権と並ぶ第二の参政権だと10年以上前から主張してきたことを踏まえれば最高裁大法廷がやっと「選挙権と同様の性質を有する」との判断を示したのはあまりにも遅すぎたと言える。
大法廷判決は、国民審査権は「国民主権の原理に基づき憲法に明記された主権者の権能の一つのである点において選挙権と同様の性質を有する」「憲法は、選挙権と同様に、国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障している」と明記した。
国側が、在外国民の国民審査では期間を十分に確保し難いなど運用上の技術的な困難があるとしてきたことに対しては、大法廷は点字による国民審査の投票では記号式ではなく自書式投票が行われていることに鑑みても、「現在の取り扱いとは異なる投票用紙の調整や投票の方式等を採用する余地がないとは断じ難い」「在外国民の審査権の行使を可能にする立法措置を取ることが、事実上不可能ないし著しく困難であるとは解されない」として早期是正を促した。
国会の立法不作為について大法廷は、平成18年(2006年)公選法改正で在外選挙制度の対象が拡げられ、同19年(2007年)には、審査権と同様の性質を有する国民投票の投票権を在外国民にも認める国民投票法が制定されるなど、「在外国民の審査権について憲法上の問題を検討する契機があったにもかかわらず、国会は平成29年(2017年)国民審査まで約10年にわたって在外審査制度の創設について所要の立法措置を何らとらず・・・国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠った」として国会の怠慢を指摘した。
宇賀克也裁判官は「技術的な理由から総選挙と国民審査との間に投票日や、その結果確定日に若干の差異が生じたとしても、憲法79条2項に違犯するとは言えないのではないか」とする補足意見を付けた。
記者会見で原告の一人,映画監督の想田和弘氏は「在外邦人は130万〜140万ぐらいいる。彼らを代表して全面勝訴したのは本当に喜ばしい。最高裁判事はいつの間にか任命され、いつの間にか定年で辞めていく。最高裁は違憲審査権を持っている権力の強い国家の組織だ。それを構成する判事たちをノーチェックにしておいてよいのか。最後は主権者が罷免できる権利を留保している。そうでないと三権分流は機能しない。日本的な、お上意識もあり最高裁はブラックボックス化しているところがあるのではないか。最高裁は私たちの生活や国の制度に大きな影響を与える。主権者がもっと関心を持って参加し、判決を機に形骸化している国民審査を、実を持ったものにしていく議論が高まっていけばいい」と述べた。
弁護団団長の吉田京子弁護士は「今度は制度を生かすのも殺すも国民次第。バトンは最高裁から渡され、国民の手に中にある。国会が法改正すれば国民審査のすそ野が広がる。国民全体の勝利であり、民主主義の勝利でもある」と言った。
さらに原告で弁護士でもある永井康之氏はブラジルに4年余り滞在していた経験を踏まえ、日本の裁判で裁判官の顔が見えない理由として「裁判の公開が足りないのではないか」と指摘した。ブラジルでは連邦最高裁長官の判断で2000年代に入ってからテレビ局がつくられ最高裁の審理はすべてテレビ中継されるようになった。それから法廷で意見を言わなかった判事たちがどんどん意見を言うようになり、国民に顔が見えるようになった。いまではブラジルの人であれば最高裁判事全員の名前をある程度の人たちは知っている」と話した。