在外邦人国民審査権確認裁判

平成23年4月26日、東京地裁(八木一洋裁判長)は、在外邦人が国民審査権を行使できない事態を生じさせていたことの憲法適合性については重大な疑義があったと判決しました。事実上の「違憲状態判決」です。
関連リンク先: 伊藤塾HPでは、伊藤真弁護士の本判決についての解説が掲載されています
【2022年追記 ① (最高裁弁論)】
最高裁大法廷に係属中の下記の当該案件は、令和4年4月20日午後1時30分より、口頭弁論が開かれます。
国民審査は選挙権と並ぶ国民の参政権です。海外に居住しているからという理由で、国民審査権を行使できないのは明らかな憲法違反です。
【2022年追記 ②(20220525最高裁判決レポート)】
− 国民審査権は選挙権と同じ参政権、在外国民の国民審査権否定は違憲、最高裁大法廷、裁判官全員一致で判断 −

海外に住む日本人が最高裁判所裁判官の国民審査に投票できないのは憲法違反か否かが争われてきた訴訟で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は25日、国民審査法が在外国民に審査権の行使をまったく認めていないのは憲法15条1項(公務員を選定し罷免する国民固有の権利)、同79条2項、3項(最高裁判所の裁判官の任命は総選挙の際に国民の審査に付し、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは罷免される)に違反する」として違憲判断を下した。15人の裁判官全員一致の意見だ。最高裁が法令を違憲と判断したのはこれで戦後11件目。国が審査権の行使を可能にする所要の立法措置を取らないという不作為も認め、原告一人当たり五千円の賠償を国に命じた。

この裁判は、一人一票訴訟を率いる升永英俊、久保利英明、伊藤真の3名の弁護士が訴訟代理人となり2010年、東京地裁に提訴した裁判で翌11年、「憲法適合性については重大な疑義がある」との判決を引き出したことが突破口だった。それが最高裁大法廷の違憲判断として実を結んだことは喜ばしい限りだ。同時に、升永弁護士らが国民審査権は選挙権と並ぶ第二の参政権だと10年以上前から主張してきたことを踏まえれば最高裁大法廷がやっと「選挙権と同様の性質を有する」との判断を示したのはあまりにも遅すぎたと言える。

大法廷判決は、国民審査権は「国民主権の原理に基づき憲法に明記された主権者の権能の一つのである点において選挙権と同様の性質を有する」「憲法は、選挙権と同様に、国民に対して審査権を行使する機会を平等に保障している」と明記した。

国側が、在外国民の国民審査では期間を十分に確保し難いなど運用上の技術的な困難があるとしてきたことに対しては、大法廷は点字による国民審査の投票では記号式ではなく自書式投票が行われていることに鑑みても、「現在の取り扱いとは異なる投票用紙の調整や投票の方式等を採用する余地がないとは断じ難い」「在外国民の審査権の行使を可能にする立法措置を取ることが、事実上不可能ないし著しく困難であるとは解されない」として早期是正を促した。

国会の立法不作為について大法廷は、平成18年(2006年)公選法改正で在外選挙制度の対象が拡げられ、同19年(2007年)には、審査権と同様の性質を有する国民投票の投票権を在外国民にも認める国民投票法が制定されるなど、「在外国民の審査権について憲法上の問題を検討する契機があったにもかかわらず、国会は平成29年(2017年)国民審査まで約10年にわたって在外審査制度の創設について所要の立法措置を何らとらず・・・国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠った」として国会の怠慢を指摘した。

宇賀克也裁判官は「技術的な理由から総選挙と国民審査との間に投票日や、その結果確定日に若干の差異が生じたとしても、憲法79条2項に違犯するとは言えないのではないか」とする補足意見を付けた。

記者会見で原告の一人,映画監督の想田和弘氏は「在外邦人は130万〜140万ぐらいいる。彼らを代表して全面勝訴したのは本当に喜ばしい。最高裁判事はいつの間にか任命され、いつの間にか定年で辞めていく。最高裁は違憲審査権を持っている権力の強い国家の組織だ。それを構成する判事たちをノーチェックにしておいてよいのか。最後は主権者が罷免できる権利を留保している。そうでないと三権分流は機能しない。日本的な、お上意識もあり最高裁はブラックボックス化しているところがあるのではないか。最高裁は私たちの生活や国の制度に大きな影響を与える。主権者がもっと関心を持って参加し、判決を機に形骸化している国民審査を、実を持ったものにしていく議論が高まっていけばいい」と述べた。

弁護団団長の吉田京子弁護士は「今度は制度を生かすのも殺すも国民次第。バトンは最高裁から渡され、国民の手に中にある。国会が法改正すれば国民審査のすそ野が広がる。国民全体の勝利であり、民主主義の勝利でもある」と言った。

さらに原告で弁護士でもある永井康之氏はブラジルに4年余り滞在していた経験を踏まえ、日本の裁判で裁判官の顔が見えない理由として「裁判の公開が足りないのではないか」と指摘した。ブラジルでは連邦最高裁長官の判断で2000年代に入ってからテレビ局がつくられ最高裁の審理はすべてテレビ中継されるようになった。それから法廷で意見を言わなかった判事たちがどんどん意見を言うようになり、国民に顔が見えるようになった。いまではブラジルの人であれば最高裁判事全員の名前をある程度の人たちは知っている」と話した。


親指を突き上げ、笑みを浮かべ喜ぶ原告の想田和弘監督(中央)ら=最高裁前で
【2018年追記】
衆議院選挙と同時に行われる最高裁裁判官国民審査につき、在外邦人が国民審査権を行使できないのは憲法に違反するとして、想田和弘さん(NY在住・映画監督)ら5人が、2018年4月12日、次回の国民審査で審査権を行使できることの確認などを求める訴えを東京地裁に起こしました。
当国民会議もかねてから主張しているとおり、国民審査は、選挙権と並ぶ国民の参政権です。
当国民会議は、この裁判に注目し、今後裁判情報をお伝えしていこうと思っています。
【裁判傍聴レポート】
第1回(2018.6.11 10:30am)
第2回(2018.8.23 11:30am)
被告準備書面(1)(訴状に対する反論の書面)、被告提出証拠、原告第1準備書面(被告準備書面(1)に対する反論の書面)、原告提出証拠が提出されました。
次回、被告は、原告第1準備書面に対する反論を尽くす予定とのことです。
次回期日:11月1日(木)午前11時半から、東京地方裁判所703号法廷
第3回(2018.11.1 11:30am)
原告側が被告国側が提出した準備書面(2)で、技術的制約があって投票に間に合わないとしている点について以下の釈明をもとめました。
(1) 在外公館によっては間に合わないところもある、としているが実質的な理由になっていない
(2) 投票用紙の調整に要する期間と投票用紙の送付に要する期間について何日だと具体的に教えて頂かないと議論できない
(3) 洋上投票は行われているのに、在外公館では不可能という趣旨を明らかにしてほしいと要望しました。
 これに対し、国側は再三、準備書面がすべてと答えたため、いったん裁判長ら3人が退廷し合議した。その結果、裁判長が「(提出されている)この資料を前提に判断したい」と述べ、原告側の釈明要求は拒否された形になりました。
 この後、原告の一人であり、ブラジル・サンパウロ在住で一時帰国中の原告本人が2歳8日月の息子を脇に抱えながら、「国民審査という最高裁裁判官に対し民主的コントロールを及ぼす制度を在外国民に認めることは重要だ。一日も早く違憲状態が是正され、正しい国民審査権が認められるように判断してほしい」と力強く意見陳述しました。
次回期日:12月20日(木)午後1時20分、東京地方裁判所703号法廷
第4回(2018.12.20 13:20pm)
原告訴訟代理人・吉田京子弁護士:
 被告の国側は「技術的な理由で在外国民審査は実施できない」と20年間ずっと同じことを言っているが、「これは間違いだ」と指摘。「在外国民審査に技術上の制約はない、審査の公正を害することもない」ことは2000年以降の国政選挙での在外投票が裏付けている。国は「選挙はできるのに、審査はできない。投票用紙が違うからだ」と主張するが「その違いは簡単に乗り越えられる」として、原告側は具体的に@自書式A分離記号式Bwrite-inの三つの方式を提案しているのに、国側はなお「投開票に時間がかかる」とか「過誤投票が増える」と言って反対していると述べた。
吉田弁護士は、被告の主張は「在外国民審査が不可能だというのではなく、大変だということ」に過ぎない。だからといって、「憲法上の権利をないがしろにしてよいはずはない」としてこの確認訴訟で裁判所が憲法適合性について判断を示すよう重ねて求めた。裁判所がこの議論を避けて国側が在外国民の権利を侵害し続けることは許されないと締めくくった。(吉田弁護士メモ)
続いて同じく原告訴訟代理人で原告でもある谷口太規弁護士:
 アメリカに留学、働いていた体験を踏まえて、海外に暮らす日本人は住民票のあるなしに関係なく、そこで得た経験を日本に持ち帰り役に立ちたいと思っている。その彼らを「一律、民主主義のプロセスから排除する理由は何もない。正当化する理由もない。排除することによって得られる利益もない」と陳述した。 その上で、海外での国民審査は技術的に不可能だとする国側の主張は空疎だ。実際、「現代の技術を使って、投票用紙の調整・送付・投票、どのプロセスに、どの程度時間がかかり、どの在外公館ではその対応ができないのか、国は具体的な事実に関する主張も立証もしていない」と強調、憲法上、「重大な疑義があると言われて7年。裁判所は、海外にいる日本人10万人以上の憲法上の権利確認に正面から取り組んでほしい」と訴えた。(谷口弁護士メモ)
被告(国):
 「従前の主張で十分と考える。更なる準備書面を提出する考えはない」と述べるに留まった。
森英明裁判長:
 「大変難しい論点を含んでいる。裁判の構成体が変わったので直ちに終結はしない。双方に釈明したり主張を求めたりすることはないか。確認したらもう一期日取らせてほしい。求釈明事項等あればなるべく早く出してほしい。」として年明け2月5日(火)を第5回期日に指定した。
提出書面:原告第3準備書面
次回期日:2019年2月5日(火)午後1時30分、東京地方裁判所703号法廷
第5回(2019.2.5 13:30pm)
この日の期日は、判決言渡しの期日指定のみ。 判決言渡期日:5月28日(火)午前10時30分(703号法廷)
第6回(2019.5.28 10:30)
東京地裁・違憲判決でした。
東京地裁民事第2部(森英明裁判長、小川弘持裁判官、三貫納有子裁判官)は、在外邦人の国民審査権を認めないことは憲法に反しており、「長期間にわたる立法不作為に過失が認められることは明らか」として、一人当たり5000円の国家賠償(合計2万5000円)を認めました。
判決文:東京地判2019.5.28
控訴審第1回(2019.11.21)
東京高裁(第8民事部 阿部潤裁判長)は、即日結審。
判決言渡期日:2020年6月25日
控訴審第2回(2020.6.25)NEW!
東京高裁も違憲判決でした。
東京高裁第8民事部(阿部潤裁判長、上田洋幸裁判官、畑佳秀裁判官)は、在外邦人の国民審査権を認めないことは憲法に反していると判断した上で、次回の国民審査において原告らが日本国外に居住していることをもって審査権を行使させないことは違法であることを確認しました(地位確認請求は訴えの利益を欠くとして却下、国家賠償訴訟は違憲が明白ではなかったとして棄却)。
重大な判決です。
判決文:東京高判2020.6.25
控訴審第2回(2020.6.25)NEW!
裁判資料(上告審)は当該弁護団のHPをご参照下さいませ。

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