人口比例選挙とは、各選挙区が人口に比例して選挙区割りされた選挙のことです(「1人1票」とも言います) 。
「1人1票の原則」が確立している米国では、例えば、ペンシルバニア州(State。人口・1280万人強)での連邦下院選の19個の選挙区間の「『最大人口差』は、なんと1人です。
ところが、 「0増5減」案での『最大人口差』は、29万0574人! 人口比例選挙は、現に、よそのState(国)でやっています。日本で、やれない合理的理由はありません。
「人口比例選挙」 |
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【ペンシバニア州での、米国連邦下院選・選挙区割り】:
最大人口の小選挙区と最小人口の小選挙区との「人口差」は、 1人 ( =64万6372人(最大人口)-64万6371人(最小人口) )。注1 (注1)195F.Supp.2d 672(M.D. Pa2002)。 |
非「人口比例選挙」 | |
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①【現行法の「4増4減」の選挙区割り(参院)】:
最大有権者数の小選挙区と最小有権者数の小選挙区の「有権者数の差」は、 90万3451人 ( =114万3913人(議員一人当り、最大有権者数。北海道))-24万0462人(同最小有権者数。鳥取県))。注2 (注2)総務省資料(平成24年)より。 |
②【現行法の衆院小選挙区割り】:
「有権者数の差」は、
29万1016人
( =49万5212人(千葉4区))-20万4196人(高知3区))。注2 (注2)総務省資料(平成24年)より。 |
③【「0増5減」の選挙区割り(衆院)】(自民党案):
「人口差」は、
29万0574人
( =58万1677人(新東京16区)) -29万1103人(新鳥取2区))。注3 (注3)2013年3月28日付 「衆院選挙区画定審議会」改定案より。 |
④【「21増21減」の選挙区割り(衆院)】:
「有権者数の差」は、
18万8249人
( =48万924人(議員一人当り、最大有権者数。鳥取県))
(注2)総務省資料(平成24年)より。
-29万2675人(同最小有権者数。島根県))。注2 |
平成23年最高裁判決で注目すべき判示は、下記のとおり、①合理性についてと、②地域性についての2つの点です。
既にご承知のとおり、最高裁判所(大法廷)は、平成23年3月23日、一票の不平等の主因となる一人別枠方式は憲法に違反する状態に至っているとし、できるだけ速やかに1人別枠方式を廃止し、憲法の要請にかなう立法をするように命じました(当国民会議HP:http://www.ippyo.org/topics/2011040601.html 参照)。
時の政権は民主党政権。
民主党は、2009年の政策集において、「また、1票の較差拡大の原因となっている「基数配分」(小選挙区割りの際にまず47都道府県に1議席ずつ配分する方法)を廃止して、小選挙区すべてを人口比例で振り分けることにより、較差是正を図ります。」と記載し、人口比例選挙(即ち、1人1票選挙)を掲げてました(http://archive.dpj.or.jp/policy/manifesto/seisaku2009/05.html#衆議院の定数80削減)。
民主党は、同最高裁判決を受け、直ちに人口比例に基づく再選挙区割りを作成し公表しました(「21増21減」案、2011/04/03付朝日新聞)。しかし、党内の抵抗が大きく、同最高裁判決から1年8ヶ月後の平成24年11月迄、民主党は、同最高裁判決の示す法改正を行いませんでした。
先の国会の最終日(平成24年11月16日)になって、国会はようやく、衆院小選挙区選挙に関して「0増5減」法案を成立させました。この「0増5減」法改正は、「清き0.4票」を「清き0.6票」に修正する、『誤魔化しの法改正』でしかありません。昨年末行われた第46回衆院選挙は、最高裁に違憲状態と判断された第45回衆院選挙と同じ選挙区割り(= 「清き0.4票」 )で行われました。
したがって、昨年末の第46回衆院選挙が違憲であることに、疑いの余地はありません。
「違憲状態」衆院小選挙区選挙によって選出された国会議員は、「違憲状態」国会議員です。現在日本は、「違憲状態」国会議員が参加する国会の決議によって、日々「違憲状態」の法律が成立しています。この「違憲状態」法律が、主権者(1億2800万人)全員を法的に拘束します。このような『国家レベルの異常事態』は、一刻も早く正す必要があります。
次に、「0増5減」案は、平成23年最高裁大法廷判決に沿ったものであったのかを見ていきましょう。
まず、上述のとおり、平成23年最高裁大法廷判決は、「一人別枠方式の廃止」を求めるものでした。一人別枠方式は、以下に示す、衆院区画設置法第3条2項*1に基づきます。
「衆議院議員定数訴訟最高裁大法廷判決の解説と全文」と題する論文(ジュリストNo.1428。2011.9.1 56〜62頁)−岩井伸晃・最高裁判所調査官、小林宏司・最高裁判所調査官執筆−は、
「 そして,本件選挙時における前記の較差が,既に合理性の失われた1人別枠方式を主要な要因として生じたものである以上,当該時点における本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたとの評価を免れないとされたものである。本件選挙時よりも較差自体の数値は大きかった過去の選挙について,平成11年最高裁判決@(選挙直近の国勢調査に基づく最大較差2.309倍)及び平成13年最高裁判決(選挙時の選挙人数に基づく最大較差2.471倍)は,当時の選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていないとしているが,その各時点では,なお1人別枠方式が前記の合理性を維持していたものと考えられるから,これらの先例と今回の判断とは整合的に理解することができるものといえよう4)。」(同書60頁本文右欄下11行〜61頁本文左欄6行)、
4)「 従来の最高裁判例において合憲性の判定における較差の数値に係る量的な基準が示されたことはなく,本判決においても,この点は同様であり,憲法の投票価値の平等の要求の制約となる要素として国会において考慮された事情にその制約を正当化し得る合理性があるか否かという質的な観点が問題とされ,1人別枠方式についてはその合理性に時間的限界がありこれによる較差を正当化し得る合理性は既に失われたと判断されたものであって,単純に較差の数値のみから直ちに合憲・違憲の結論が導かれるものではないと解される(本判決は,区画審設置法3条1項所定の区割基準につき,「投票価値の平等に配慮した合理的な基準を定めたものということができる」と判示しているが,これが最大較差2倍という数値を画一的に量的な基準とする趣旨のものでないことも,その前後の説示の内容等から明らかであるといえよう)。」(強調 引用者)
と記述します。
岩井伸晃・最高裁判所調査官、小林宏司・最高裁判所調査官は、あくまでも、「投票価値の平等」(即ち、「人口比例選挙」)が、基準であって、もし仮に、「投票価値の平等」(即ち、「人口比例選挙」)からの乖離がある場合は、『その「投票価値の平等」(即ち、「人口比例選挙」)からの乖離を正当化し得る合理性があることが、必要である』と解しており、この点において、米国連邦最高裁判決(Karcher v. Daggett, 462 U.S. 725 1983年)の『尋常ならざる厳格さを持つ『実務上可能な限り』の基準』と同一です。
そして、合理性の立証責任の分配の論点については、 2013年3月に、 ①福岡高裁(西謙二裁判長)、②東京高裁(難波孝一裁判長)が、『人口比例選挙からの乖離を生ぜしめた、立法裁量権の行使に合理性があることの『立証責任』は、国にある』旨明言する歴史的判決を下しています。
即ち、これらの高裁判決は、『立証責任』の分配の論点で、1983年米国連邦最高裁判決と既に同一です。
ところで、平成24年最高裁大法廷判決は、これまで、一票の格差は衆院選で2倍(=”清き0.5票”)、参院選で6倍(=”清き0.2票”)と事実上一部で理解されてきた基準につき、「投票価値の平等の要請」の点では、『参院選の選挙権は、衆院選の選挙権と同じである』と判断しました(当国民会議HP:http://www.ippyo.org/topics/2012113001.html 参照)。
同判決は、『参院選の1票の価値は、参院の独自性を理由に、衆院選の1票の価値より「1票の格差」が大きくて当然である』としてきた、過去30余年間続いた『国家の仕組み』を変える「歴史的判決」です。同判決で、参院選の“清き0.2票”は、少なくとも、“清き0.5票”まで、一気に変わりました。
また、同最高裁判決は、「より適切な民意の反映が可能となるよう、都道府県単位の選挙区割りを現行の方式をしかるべき形であらためるべき」旨述べ、区割り方法についての具体的な意見も示しました。
最高裁は、平成23年最高裁大法廷判決で、衆院選挙において、「一人別枠方式の廃止(の上での人口比例選挙)」を要請する違憲状態判決を下し、平成24年最高裁大法廷判決で、参院選挙において、「衆参の選挙権の価値の同価・都道府県単位にこだわらない選挙区割り」を要請する違憲状態判決を下しました。
最高裁は、当該2つの最高裁判決で、(1)一人別枠方式の廃止(の上での人口比例選挙) → (2)衆参の選挙権の価値は同じ → (3) 都道府県単位にこだわらない選挙区割り、の3要素を要請しています。
そうなると、その延長戦上にある平成25年最高裁判決は、1人1票の最高裁判決しかありません。
福岡高裁では、既に、参院選挙で「一人一票」判決がでています(福岡高判H23.1.28/判タ1346-130)。
今回の衆院選は、最高裁が違憲状態と判決した選挙区割りのまま行われました。これは、サッカーの試合で言えば、選手がレッドカードを受けたまま、ルールを無視して、試合を続行しているようなものです。
しかし、サッカーの試合はあくまでも例え話であって、実際は、日本の国家権力の行使の正当性に関わる最重要問題です。
日本では、現在、日々、国家権力が、「違憲状態」国会議員(但し、衆院小選挙区選出国会議員)、「違憲状態」国会議員(但し、参院選挙区選出国会議員)の多数決によって行使されています。
このような、国家レベルの異常事態は、国家機関たる司法が、国家レベルで緊急対応して、正さなければなりません。
公職選挙法213条1項、2項(”100日裁判ルール”の規定)は、『裁判所(上告審を含む)が、選挙無効の確定判決を選挙無効訴訟の提訴後100日以内(即ち、速やかに)に下すよう努力して、「違憲状態」国会議員(即ち、「レッドカード」のプレーヤー)を国会(即ち、試合のピッチ)から排除すること』を要求しています。
なぜなら、権力の行使(立法、内閣総理大臣の指名等)は、憲法に基づいて「正当に選挙された国会における代表者」によらなければならないからです。
全国弁護士グループが昨年末(2012/12/17)に提起した1人1票裁判(全国8高裁6高裁支部)では、第一回口頭弁論で即日結審し、全ての事件で、3/27までに判決が言い渡されました。
現在最高裁で審理中の事件は、以下の17件です。
1人1票裁判は、主権者である全国民(1億2800万人)が当事者です。 最高裁の弁論期日が設定されるまでのこれから数ヶ月間、時間の許す限り、SNSなどで呼びかけをしましょう。
【2012衆院選】違憲・無効判決(2) 違憲・違法判決(13)違憲状態判決(2) | |||||
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13年3月6日 | 東京高裁 | 違憲・違法 | 判決文 | ||
3月7日 | 札幌高裁 | 違憲・違法 | 判決文 | 「0増5減」は不十分 | |
3月14日 | 仙台高裁 | 違憲・違法 | 判決文 | 「0増5減」は不十分 | |
名古屋高裁 | 違憲状態 | 判決文 | 「0増5減」は不十分 | ||
3月18日 | 福岡高裁 | 違憲状態 | 判決文 | 「人口比例選挙」判決 | 「0増5減」は不十分 |
名古屋高裁 金沢支部 | 違憲・違法 | 判決文 | 「人口比例選挙」判決 | 「0増5減」は不十分 | |
3月22日 | 高松高裁 | 違憲・違法 | 判決文 | 「0増5減」は不十分 | |
3月25日 | 広島高裁* | 違憲・無効 | 判決文 |
「極めて高度の必要性から、 制約を受ける」 |
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3月26日 | 東京高裁* | 違憲・違法 | 判決文 | ||
広島高裁 松江支部 | 違憲・違法 | 判決文 | |||
広島高裁 岡山支部 | 違憲・無効 | 判決文 | 「人口比例選挙」判決 | 「0増5減」は不十分 | |
福岡高裁 宮崎支部 | 違憲・違法 | 判決文 | |||
福岡高裁 那覇支部 | 違憲・違法 | 判決文 | |||
広島高裁 | 違憲・違法 | 判決文 | |||
大阪高裁 | 違憲・違法 | 判決文 | |||
3月27日 | 仙台高裁 秋田支部 | 違憲・違法 | 判決文 | ||
4月11日 | 東京高裁** | 違憲・違法 | 「0増5減」は不十分 |